シンガポールで事業を行うためには、まず会社の設立が必要です(シンガポール人や永住者は個人事業形態も選択可能)。
この過程では、最初に会社名の承認を受け、その後に設立申請を行います。
シンガポールでの法人設立は多くのメリットをもたらしますが、日本人にとっては外国での法人設立となり、日本国内で簡単にできることも、シンガポールでは複雑な手続きが必要な場合があります。
設立には多くの要件をクリアする必要があるため、準備と理解が重要です。
会社名に関しては、以下のような社名は認められません。
承認された会社名は申請後60日間保持され、特定の条件下で延長も可能です。申請にあたっては、特定の場合を除き、専門家に依頼することが一般的です。役員の就任承諾、発起人による定款の承認や設立の決議など、必要な書類が揃っていれば、登録費用を払い込むことで通常は即日設立が完了します。ただし、申請内容が関連当局の承認やレビューを必要とする場合は、14日から2ヶ月程度の時間がかかることがあります。
シンガポール会社法第19条1項により、新規設立される会社は定款を提出する必要があります。定款には会社の事業目的を記載することも可能ですが、定款に記載された事業目的によって会社の事業活動が制約されないという判例があるため、特に記載しないケースが多いです。
非公開会社の場合、シンガポール会社法第18条に従い、定款に以下の項目を規定する必要があります。
シンガポールでは、会社は通常の営業時間内に最低3時間オープンしている、一般にアクセス可能な住所を登録する必要があります。この規定に違反すると、最大5000ドルの罰金が科される可能性があります。
会社の登録住所が変更された場合、変更から14日以内にACRA(シンガポール会計・企業規制庁)へ通知しなければなりません。しかし、通常は法人設立登記が完了していないと、法人名義での賃貸契約などが行えません。そのため、実務上はコンサルティング会社の住所貸しサービスを利用したり、バーチャルオフィスと契約することが一般的です。
シンガポールでの法人設立登記において、最低資本金はSGD1です。しかし、従業員の就労ビザ取得には一定以上の資本金額が必要と言われています。それを考慮すると、資本金額はSGD100,000程度からの金額で設定することが一般的となっています。
会社は、少なくとも1名のシンガポールに通常居住している取締役を置く必要があります。居住者取締役を選任しない場合、他の取締役は罰金の刑罰対象となることがあります。さらに、居住者役員が不在の状態で事業を6か月以上運営した場合、株主はその期間に発生した債務に対して責任を負うことになります(有限責任の否定)。
外国人も取締役に就任することは可能ですが、少なくとも1名はローカルダイレクターでなければなりません。これには、シンガポール国民または永住権保有者がシンガポールに住所を持っていることが必要です。日系企業が新規で進出する際は、居住する取締役が不在のため、コンサルティング会社などに名義取締役を依頼することが一般的です。
2009年3月1日以降、会社取締役となるためには18歳以上である必要があります。また、破産者や不正または詐欺による有罪判決を受けた者など、一定の条件を満たさない個人は取締役になることができません。
全ての会社は設立後6か月以内にカンパニー・セクレタリーを選任しなければなりません。カンパニー・セクレタリーはシンガポールの居住者である必要があり、一人取締役会社の場合、取締役との兼任はできません。
この役割は会社登記を担当するもので、一般的には取締役と同様にコンサルティング会社などに依頼することが多いです。シンガポールの会社法により、法人登記後6か月以内に会社秘書役を選任する必要があります。
公開会社のカンパニー・セクレタリーは、シンガポール会社法171条(1AA)の要件を満たす必要があり、以下の適格性要件のうち少なくとも一つを満たすことが求められます。
会社は株主名簿、役員名簿に加え、会社の実質所有者(Controller)および名目取締役(Nominee Director)に関する名簿を作成し、登記住所地に備え置くことが求められています。特に、会社の実質所有者に関する情報は登記事項として扱われますが、会社の登記簿には記載されず、シンガポールの公的機関による閲覧のみが可能で一般に公開されることはありません。変更があった場合、2営業日以内に変更登記を行う必要があります。
会社は、会社法による特別な免除がない限り、設立後3ヶ月以内に会計監査人を選任しなければなりません。
会社は決算日後6か月以内(上場会社の場合は4か月以内)に株主総会を開催し、会計監査を受けた財務諸表を提出して株主の承認を得なければなりません。会計監査は原則として全ての会社に適用されますが、以下の条件を満たす場合は会計監査の免除が認められています。
この免除規定は連結財務諸表ベースで判断されます。企業グループの一員である会社の場合は、グループ全体の連結財務諸表に基づいて判断されます。例えば、シンガポール法人の親会社が日本にあり、その親会社が日本や他国に子会社を持つ場合は、子会社も含めた連結ベースでの判断が必要です。
株主総会の終了後、30日以内に、すべての会社はACRA(会計企業庁)に年次申告書を提出しなければなりません。
年次申告書は、会社の株式の状況、役員の状況、事業内容等を確認して提出するものであり、一部の例外を除いて決算書の提出も同時に求められます。決算書を提出した場合は、一般に公開され、誰もが一定の料金を払ってACRAから入手することができるようになっています。
シンガポールでの支店は独立した法人格を持たず、外国法人の一部とみなされますが、現地法人と同じように経済活動ができます。銀行や保険のような金融業界がこの方法を採用するケースが多いです。
ただし、上記の現地法人と異なり、法的規制や運営責任は日本本社が負うほか、税制面での優遇措置も受けられないことがあります。
シンガポール支店は、シンガポールで支店単体での税務申告が必要となると同時に、日本本社と同一法人格でもあるため、日本側でも本社に含めて税務申告を行う必要があります。そのため、結果としてシンガポールの低税率の恩恵を受けることができません。
また、現地法人に比べ、設立に係る書類の準備や手続きに手間がかかることがデメリットとなります。
その一方で、現地法人と比較すると、シンガポール支店への資金移動が容易な事やシンガポール事業からの撤退判断が容易なこと、支店での赤字を日本本社の利益と相殺できることなどはメリットです。
シンガポールで駐在員事務所を設立する場合、現地法人や支店とは異なり、販売や営業などの経済活動は行うことができません。ただし、マーケット調査や情報収集などは可能です。現地法人設立に比べて設立手続きが簡単で、就労ビザの申請も可能であるため、事業拡大の前段階として利用されることもあります。
駐在員事務所設立には以下の要件が必要です。
駐在員事務所は収益活動を行わないため、法人税やGSTに関する申告・納付義務は発生しません。しかし、駐在員や従業員の個人所得税の申告は必要です。
銀行口座の開設
資本金を計上するためにも現地の銀行口座が必要です。日系銀行のシンガポール支店、シンガポール地場銀行、シティバンクなどのグローバル銀行を目的に応じて使い分けることが一般的です。近年は銀行側の手続きが長期化することがあり、半年以上かかる場合もあるため、必要書類の準備や手続きの流れを理解し、余裕を持ったスケジュールの確保が重要です。各銀行の特徴やメリットは次の通りです。
日系のメガバンク3行(三菱UFJフィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ)は、従来よりシンガポールに支店を持っており、日本語で対応可能であることや、日本の商慣習に精通していることから、多くの日系企業が口座を開設しています。
シンガポール地場銀行は、シンガポール国内の至る箇所にATMが設置されており、シンガポールのローカル企業との取引、シンガポール政府、政府系企業などへの支払いにも利便性が高いなどのメリットがあります。
日々の小口取引が多くなる場合には、シンガポール地場銀行の口座を一つ用意しておくのが得策です。
シンガポールはアジアの金融センターの役割も担っているため、シティバンク、HSBC、スタンダードチャータード銀行などのグローバル銀行もあります。複雑な金融商品取引に強みがある銀行ですが、スタートアップの日系企業がそのような取引をすることはありません。
シンガポールにおける法人設立では、ご説明した要件をもれなく押さえ、適法に会社設立を進めることが求められ、法人登記に続く重要タスクである銀行口座の開設やビザ申請などを考慮して決定していくことが欠かせません。
法的な要件と、スムーズなシンガポール法人の立ち上げのためには様々な要素を加味して検討と準備、そして実行を進める必要があります。また、設立後は、経理、記帳代行費用、会計監査費用、税務申告費用等が発生しますので、是非弊社のワンストップサービスをご利用ください。
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