COMPASSの概要

COMPASSの概要

COMPASSの概要

COMPASSは、個人属性(C1: 給与、C2: 学歴)と企業属性(C3: 国籍多様性、C4: ローカル雇用の促進)の計4項目の基礎基準によって構成されています。さらに、ボーナス基準としてC5: スキルボーナスとC6: 戦略的経済優先ボーナスが設定されています。各項目で最大20ポイント(戦略的経済優先ボーナスでは最大10ポイント)を獲得でき、合計40ポイント以上がEP取得の条件となります。ただし、月額給与がSGD 3,000以上でPMET(Professionals, Managers, Executives, and Technicians)が25人未満の企業は、C3: 国籍多様性とC4: ローカル雇用の促進で無条件に各10ポイント(計20ポイント)が付与されます。

COMPASSの適用除外となるケースは以下の通りです。

  • ・月額固定給がSGD 22,500以上の場合
  • ・海外企業内転勤としての申請の場合
  • ・短期勤務(例:1カ月)の場合

EPの新規申請に対するCOMPASSの適用は2023年9月1日から開始され、更新の場合は2024年9月1日から適用されます。

COMPASS評価基準の詳細

C1:給与

2023年9月1日以前のシンガポールのEmployment Pass(EP)申請では、最低月給がSGD 5,000(金融業ではSGD 5,500)で設定されており、申請者の年齢や学歴によって変動することがありました。しかし、新しいCOMPASSフレームワークの下では、給与と学歴の評価が分離され、月額固定給与は各業種のローカルPMET(専門職、管理職、エグゼクティブ、技術者)の年齢層別平均給与を基準に評価されます。

月給が業種内で上位10%以内に入る場合は20ポイントが、上位10~35%の範囲内であれば10ポイントが付与されます。これらの給与基準はシンガポール人材開発省(MOM)によって業種別に設定されています。

C1:給与
各セクターの年齢別ローカルPMETの月額固定給与との比較
ポイント
上位10%以内 20
上位35%以上、上位10%未満 10
上位35% 0

C2:学歴

COMPASSフレームワークに基づき、Employment Pass(EP)の申請者は教育背景に応じてポイントを獲得します。トップクラスの大学の卒業資格がある場合は20ポイントが、それ以外の大学卒業者は10ポイントが与えられます。
トップクラスの大学のリストは、シンガポール人材開発省(MOM)によって毎年3月に更新され、その年の9月から適用されます。2023年の評価では、日本の東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学、東京工業大学がトップクラスに位置付けられています。

申請者は、学歴の証明として第三者機関による学位の検証(Verification)を提出する必要があり、このプロセスには追加の時間、労力、そしてコストがかかる可能性があることに注意が必要です。

C2:学歴:申請者の学歴に基づく ポイント
トップクラスの教育機関 20
学位相当資格(大学) 10
学位に相当する資格なし 0

C3:国籍多様性

国籍多様性の比率を求める計算式は以下のとおりです。

  • ・国籍多様性比率=社内の従業員(EP申請者と同国籍のPMET)÷全従業員(PMET)

日系企業は、言語や文化的な背景から日本人を多く採用している傾向にあります。そのため、国籍多様性の項目でポイントを確保するためには、外国籍の労働者の採用等も考慮に入れる必要があるでしょう。

C3:国籍多様性:申請者と同じ国籍が企業のPMETに占める割合 ポイント
5%未満 20
5~25% 10
25%以上 0

C4:ローカル雇用の促進

業界内の他の企業と比較した場合のローカルPMETの雇用比率に基づいて、ポイントが付与されます。ローカル雇用比率は次のように計算されます。

  • ・ローカル雇用比率 = ローカルPMET ÷ 全従業員PMET

ローカル雇用比率が70%以上の場合、少なくとも10ポイントが付与されます。これは、業界内のローカル雇用水準に関わらず、ローカル雇用比率が高い企業を支援するための措置です。現在、各業種のローカル雇用比率の水準は公表されていないため、企業がこの項目でポイントを見積もることは難しいかもしれません。しかし、シンガポール政府はローカル人材の雇用拡大を推進しており、ローカル雇用比率の高い企業には大きな利点となるでしょう。

C4:ローカル雇用の促進:企業のローカルPMET比率の業界での順位 ポイント
上位50%以内 20
上位80%以上、上位50%未満 10
上位80%未満 0

C5:スキルボーナス

スキルボーナスに関して、シンガポール人材開発省(MOM)が公表している人材不足職業リストに記載されている職種の場合、20ポイントが付与されます。ただし、企業全従業員の3分の1以上が申請者と同じ国籍の場合は、付与されるポイントが10ポイントに減点されることに注意が必要です。

具体的な影響及び対応策
企業のPMET従業員数により、影響の度合いは大きく変わります。以下では、C3とC4の項目でそれぞれ10ポイントが付与される基準であるPMET従業員数25人未満かどうかに分類し、EP申請への影響を考察します。

C5:スキルボーナス ポイント
人材が不足している職業リストに掲載されている仕事 20

C6:戦略的経済優先ボーナス

戦略的経済優先ボーナスは、シンガポール政府の関連機関が実施するプロジェクトに参加する企業に認定され、該当企業は採用時に申請者ごとに10ポイントを獲得できます。このボーナスの有効期間は、プロジェクトへの参加期間または3年間のうち短い方となります。更新時には、C3やC4の要件などにも注意が必要です。
プロジェクトの実施機関はシンガポール人材開発省(MOM)で公表され、さまざまな種類のプロジェクトがあります。企業は、ポイントの付与状況に応じて、自社のビジネスと親和性の高いプロジェクトへの参加を検討することが有効です。

人材不足職業リストには、アグリテック、グリーンエコノミー、AIエンジニアなどの新しい分野、さらに臨床心理士やヘルスケア分野、海事などシンガポール特有の業種が挙げられています。このリストはMOMにより定期的に更新されると予想されるため、EPの申請者がリストに掲載されている業務に従事する場合は、定期的な確認が重要となり、大きなアドバンテージになるでしょう。

C6:戦略的経済優先ボーナス ポイント
イノベーションまたは国際化活動に関する特定の評価基準を満たした企業 10

シンガポールの新COMPASSフレームワーク:PMET人数別のEP申請への影響と対応戦略

PMETが25人以上の企業の場合

PMETを25人以上雇用している企業にとって、COMPASSの影響は大きいと言えます。C1とC2で40ポイント以上を獲得することは困難であり、C3とC4でポイントを得られるかが鍵となります。これに伴い、企業は従業員構成の変更を迫られる可能性があります。これは短期間で行えるものではなく、時間を要するため、企業側はC5やC6のボーナス基準を含む戦略的な対応を早急に検討することが推奨されます。

PMETが25人未満の企業の場合

PMETが25人未満の企業では、COMPASSの影響はあるものの深刻なものではないと言えます。C3とC4の項目で無条件に20ポイントが付与されるため、残りの20ポイントをC1とC2で10ポイントずつ確保するのが一般的なパターンです。C2やボーナス基準(C5やC6)で残りの20ポイントを満たせば、C1の給与項目が0ポイントでも問題ありませんが、SATの最低給与額は満たす必要があります。この変更により、学歴や職種の項目がより重要になります。
今回の制度変更は、シンガポールに進出している企業や、今後進出を検討している企業にとって重要な事項です。シンガポールの就労ビザ運用は頻繁に変更されるため、情報をタイムリーに入手することが重要です。シンガポール就労ビザEPパスやSパスの申請に関するご相談がありましたら、是非お問い合わせください。