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ヘイトスピーチと表現の自由(2)

こんにちは、IMSの林です。
前回の更新では、表現の自由についての基礎知識を皆様と一緒に確認しましたが、今回の更新では、さらに一歩踏み込んでヘイトスピーチと表現の自由が対立を一緒に見ていきたいと思います。

ここで、前提として定義について確認してみましょう。
論者によって様々な議論が展開されていますが、「一般的に言えば、ヘイトスピーチは、①歴史的に差別され抑圧されてきた集団に対して、さらにその差別を助長するような発言であるということ(「マイノリティに対する差別」の要素)と、②当該集団に対する「憎悪」が表明されていること(「憎悪」の要素)との両方を兼ね備えたものとして捉えられることが多い。」とされています。(斎藤愛「表現の自由の現況―ヘイトスピーチを素材として」論究ジュリスト13号(2015年)56頁~57頁)
上記のことを踏まえて、ここでもヘイトスピーチの定義は「自分の意思とは無関係に負わされた属性を理由として歴史的に差別され抑圧されてきた個人または集団に対して、さらにその差別を助長し、かつ憎悪を表明するような表現」とします。(斎藤愛の前掲論文・57頁)

ただ、ここでは専ら、集団を対象とするヘイトスピーチ規制の可否を考えてみたいと思います。
なぜなら、個人に対するヘイトスピーチは名誉棄損にあたるとして刑罰を科したり、不法行為に該当するとして損害賠償責任を課すという対応がすでに現在の制度に基づいても存在するからです。
まずヘイトスピーチ規制をすべきでないという立場からは、差別的表現は重要な政治的問題や社会的問題を提起しているとも考えられること、どのような言論が正しいかということは社会的な討論を通して決定されるべきであるにも関わらず、討論の場にヘイトスピーチと呼ばれる類型の表現を排除することはいわゆる、「思想の自由市場」の考え方に反すること、さらにヘイトスピーチは単に差別的表現がなされただけで特に何らかの具体的な差別的取り扱いが行われたわけではないので、表現行為をした段階での規制は不必要だということ等の主張がなされています。
これに対して、ヘイトスピーチを規制すべきだという立場からは、差別的表現は表現の自由の保障趣旨にいう自己統治の価値を欠くこと、その集団に属する人の尊厳を損なう側面があるという側面があること、そしてヘイトスピーチにはsilencing効果があるということが指摘されています。
silencing効果とは、「人種などへの憎悪、偏見の浸透した社会では、マイノリティは自己喪失感、無力感により言葉を失い、沈黙を強いられ、見えない存在へと貶められてしまう」という効果のことを指しています。(斎藤愛の前掲論文・59頁)
このようにして、ヘイトスピーチの規制の可否については双方から様々な意見が出されています。

最後に、令和4年2月15日に下された最高裁判決を見ておきましょう。
この判決は、大阪市が制定したヘイトスピーチ規制条例(弁護士などでつくる審査会がヘイトスピーチに問題となった表現が該当すると認定した場合はヘイトスピーチを行った個人や団体の名前を公表すること等を内容とする)は、表現の自由を侵害し、無効だと主張した市民側の主張を退けました。
この判決の中では、「条例の規定は、表現の自由を一定の範囲で制約するが、人種や民族などへの差別を誘発するような表現活動は抑止する必要性が高い。市内では過激で差別的な言動を伴う街宣活動が頻繁に行われていたことも考えると、規定の目的は正当だ」とした上で、「条例で制限される表現活動は、過激で悪質性の高い差別的言動を伴うものに限られており、表現の自由の制限は必要やむをえない限度にとどまる」と述べ、「表現の自由の制限は必要やむをえない限度にとどまる」と結論付けました。

この判決の射程がどこまで及ぶのかという点については、今後の判例評釈や論者による問題点、対立点の再整理を通してより明確になっていくのではないかと思います。
ヘイトスピーチに関する問題は、日本に住む外国人が増えていくことが予想される今後の社会においては避けては通れないものなので、これを機に皆さんもニュース等を見てみましょう。

最後になりますが、2022年も始まってはや2ヶ月が経ちました。
厳しい寒さと新型コロナウイルスの感染拡大はまだまだ止まる気配がありませんが、くれぐれもお体には気を付けてお過ごしください。

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