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強制送還が憲法違反だと認められた事例

こんにちは、IMSの林です。

 

難民不認定処分を受けた不法滞在者の強制送還について憲法違反が認められた事例(東京高判令和3年9月22日)について今回は紹介したいと思います。

最初に、事案の概要についてざっくりと説明したいと思います。

 

スリランカ国籍の原告らは、入管法24条4号ロの不法残留に該当することを理由として、退去強制令書の発布を受けましたが、これに対して原告らは異議申し立てを行いました。

この異議申し立てはいずれらも棄却されたが、いずれもが決定から40日以上経過したのちに原告らに通知がなされました。

そして、この告知の翌日に原告らは、集団送還の方法によりスリランカに強制送還されました。

 

このような状況にあって、原告らは、国の処分は時間的猶予を原告らに意図的に与えずに、実質的な権利救済を受ける機会を奪うものとして、憲法32条に定められた裁判を受ける権利等を侵害するとして、国家賠償を求めて訴訟を提起しました。

 

まず、法的な目線から処分の違法適法を検討する際には、①形式的・手続き的側面 と②実質的側面の二つの視点をもつことが必要です。

今回の訴訟は、まさに上記の二つの視点を意識してみる必要がありますし、二つの視点を明確に二分することの難しさも実感していただけると思います。

 

次に、憲法32条違反を主張しているが、そもそも憲法32条がなにをいっている条文なのかを確認してみましょう。

通説的見解によれば「国会が法律という形式で樹立した訴訟制度の下で、すでに存在している訴訟法に違反して裁判を拒絶されない権利」というふうに、裁判をうける権利を保障しています。

しかし、このような理解は専ら形式的側面を捉えたものにすぎないため、より実効的な権利保障のために、「実効的権利を保障するもの」と捉えるものもあります。

 

以上までが前提知識の確認になります。

 

今回の原告らが提起した訴訟では、原告らが慰謝料の支払いを求めているのですが、原告らの不満は金銭に向けられているのでしょうか?
これを不自然だと思っていただけると嬉しいです。

 

今回の事案における原告らの不満は「日本に滞在できないこと」に対して向けられています。

では、本来原告らはどのような手続きを踏んで、日本に滞在することになるのでしょうか。

 

原告らは、国から退去強制処分を受けているために日本からでなければいけないので、この処分を無効かしてしまえばいいのです。

そして、この退去強制処分は、難民不認定処分に起因するものです。

 

そこで、本来は難民不認定処分に対して取消訴訟を提起することになります。

しかし、本邦に在留していない外国人は難民認定の申請を行うことができないと入管法上定められているため、国外退去となった原告らはそもそも難民認定申請を行いうる身分をもちあわせていないのです。

そのため、強制送還された原告らは、国外退去になっていることから、「訴えの利益」を欠くとしてもはや取消訴訟自体を提起することが許されません。

繰り返しになりますが、不認定処分を取り消しても、原告らは難民認定を受け得る地位にないからです。

ここでいう「訴えの利益」とは、訴訟を提起し勝訴したときに原告らに対する実効的な救済を実現できるとか役にたつというふうに捉えていただければ大丈夫です。

 

このような経緯があるために、原告らは金銭の支払いを求める国家賠償訴訟を提起したのですが、国賠訴訟で勝訴すれば、国の行為・処分が違法だと宣言されるので、これを意図したという側面もあるでしょう。

 

いよいよ本題に入りますが、憲法32条違反であると認められた事案だったのですが、何が憲法違反だったのでしょうか。

 

この事案において、原告らは、①速やかに不認定告知を受けられなかったためそれに対して異議申し立てをすることができなかったこと、②国は退去の約2ヶ月前には既に、退去予定日が判明していたにも関わらずあえて告知を遅らせたこと、③異議申し立てが棄却され直ちに東京入管に収容されたため外部との連絡を取ることができないままに翌日には本国へ送還されたこと、④弁護士と連絡もとれないまま送還となった者もいることなどの事実が認定されています。

 

判決文の中では、以下のように説明しています。

「Xらから難民該当性に対する司法審査を受ける機会を実質的に奪ったものと評価すべきであり、憲法32条で保障する裁判を受ける権利を侵害し、同31条の適正手続の保障及びこれと結びついた同13条に反するもので、国賠法1条1項の適用上違法になるというべきである。」

 

このように、今回ご紹介しました事案はまさに、法令の機械的運用がもたらす弊害を如実に表していると思います。

そして、裁判所が違法と認定し、形式的なものにとどまらない、実質的側面の考察も行った上で、実効的な権利救済を実現しようとした姿勢がみられるもので、非常に素晴らしいものだったと思います。

 

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